令和8年度(2026年度)、エイジフレンドリー補助金に「熱中症対策コース」が独立したコースとして新設されました。訪問介護・通所介護・施設サービスなど、高年齢の職員が多く働く介護事業所にとって、この制度は活用の余地が大きい選択肢です。この記事では補助率や対象経費、申請の流れを整理し、介護現場での具体的な活用イメージまでお伝えします。
この記事でわかること
- 熱中症対策コースが独立コース化された経緯と制度全体の位置づけ
- 補助率・補助上限額・対象となる経費の具体例
- 介護事業所が対象要件を満たしやすい理由
- 申請の流れとスケジュール、見落としやすい注意点
- 訪問介護・通所介護・施設サービスでの活用イメージ
熱中症対策コースとは?独立コース化の背景
熱中症対策コースは、令和8年度からエイジフレンドリー補助金の中で独立した1コースとして新設された制度です。
エイジフレンドリー補助金は、60歳以上の高年齢労働者が安全に働ける環境を整えるための厚生労働省の補助制度です。令和7年度までは、熱中症対策は「職場環境改善」に関する取り組みの一部でした。
ところが令和8年度版のリーフレットでは、専門家総合対策コースの対象経費一覧に「(熱中症対策は除く)」と明記されています。熱中症対策だけが別枠の「Ⅱ 熱中症対策コース」として切り出された形です。
筆者が助成金関連の情報を追う中で感じたのは、こうした独立コース化は珍しい動きだということです。単独の分野が格上げされる背景には、令和7年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則により、事業者に熱中症対策の体制整備・手順作成・周知が罰則付きで義務付けられたという事情があります。義務化への対応を後押しする狙いがあると見てよいでしょう。
制度全体の3コース構成
熱中症対策コースの位置づけを理解するには、まず全体像を押さえる必要があります。
令和8年度のエイジフレンドリー補助金は、次の3コースで構成されています。
| コース名 | 主な内容 | 補助率 | 上限額(税抜) |
|---|---|---|---|
| Ⅰ 専門家総合対策コース | リスクアセスメント+職場環境改善+運動指導 | 4/5または1/2 | 100万円 |
| Ⅱ 熱中症対策コース | 熱中症予防のための装置・装備の導入 | 1/2 | 100万円 |
| Ⅲ コラボヘルスコース | 健康保険者と連携した健康保持増進の取り組み | 3/4 | 30万円 |
熱中症対策コースは、専門家総合対策コースのようなリスクアセスメントの手続きを必要とせず、単独で申請できる点が実務上のメリットです。手続きの簡潔さが、活用のハードルを下げていると言えます。
なぜ介護事業所と相性が良いのか
介護事業所は、熱中症対策コースの対象要件を満たしやすい業界特性を持っています。
対象要件のひとつは「役員を除き、自社の労災保険適用の高年齢労働者(60歳以上)が常時1名以上就労していること」です。介護業界は人材不足を背景に、定年後の再雇用や60歳以上の新規採用が進んでいます。
そのため、この要件を満たす事業所は少なくありません。筆者が現場の声として聞いた話では、訪問介護のヘルパーに60代・70代の職員が複数名在籍しているケースも珍しくないとのことでした。ベテラン人材の活躍こそ、介護現場を支える大きな力。
もうひとつの着目点は、対象経費の要件にある「屋外作業等」の定義です。屋外もしくは、温湿度調整を行ってもなお室温31度またはWBGT(湿球黒球温度)28度を超える屋内作業場での作業が該当します。訪問介護は利用者宅への移動という屋外業務を伴いますし、通所介護の送迎業務も同様です。夏場の車内や、空調が行き届きにくい浴室・厨房も対象になり得る場面があります。
訪問介護・通所介護・施設サービスでの活用イメージ
具体的にどう使えるのか、サービス類型ごとにイメージしてみましょう。
- 訪問介護: 移動時や屋外での利用者送迎時に着用する冷却機能付きウェアの導入
- 通所介護: 送迎車両の待機時間や屋外レクリエーション時に使う移動式スポットクーラーの設置
- 施設サービス: 空調が届きにくい浴室・厨房・洗濯室で使う保冷剤用の専用冷凍ストッカーの導入
上記はあくまで一例です。自事業所のどの業務が「屋外作業等」に該当するかは、個別の作業環境に応じた確認が必要です。
補助率・上限額・対象経費の全体像
熱中症対策コースの補助率は1/2、補助上限額は100万円(消費税を除く)です。

対象経費は大きく3つのカテゴリーに分かれます。それぞれ具体例と合わせて見ていきましょう。
| カテゴリー | 対象経費の具体例 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 体表面の冷却 | 体温を下げる機能のある服・装備、移動式スポットクーラー | 熱排気を屋外等へ逃がせるもの、標準使用期間5年以上のものに限る |
| 効率的な身体冷却 | アイススラリーまたは保冷剤を冷やす専用冷凍ストッカー | 最大400Lまで。アイススラリー・保冷剤・スポーツドリンク自体は対象外 |
| 健康状態の把握・管理 | 深部体温を推定できるウエアラブルデバイス | 使用者本人のみへの通知ではなく、通信機能による集中管理ができるものに限る |
固定式のエアコンなど恒常的な空調設備は、この熱中症対策コースの対象には含まれていません。「暑熱環境下での身体機能の低下を補う装置・装備」という制度の趣旨に沿った経費かどうかを、申請前に確認してください。
対象事業者の要件を確認する
熱中症対策コースの対象は、中小企業事業者の基準を満たし、かつ60歳以上の労働者が常時1名以上在籍している事業者です。
中小企業事業者の基準は業種によって異なります。医療・福祉分野は「サービス業」区分に該当し、次のいずれかを満たせば対象となります。
| 業種区分 | 常時使用する労働者数 | 資本金又は出資の総額 |
|---|---|---|
| サービス業(医療・福祉を含む) | 100人以下 | 5,000万円以下 |
資本金や出資がない医療・福祉法人等の場合は、労働者数のみで判断される点も押さえておいてください。複数の事業所を運営する法人は、法人単位ではなく事業者としての基準を満たすかどうかを個別に確認することが欠かせません。
さらに、事業を1年以上継続していること、過去1年以内に労働関係法令違反による行政処分等を受けていないことなども条件に含まれます。詳細な要件は事業者ごとに状況が異なるため、応募前に公式のQ&Aで最終確認することを忘れないでください。
申請の流れとスケジュール
熱中症対策コースの交付申請書受付期間は、令和8年5月20日から10月31日までです。
申請から補助金の支払いまでは、おおむね次のような流れで進みます。
- 交付申請書類の提出(経費の見積書等を添付)
- 事務センターによる審査
- 交付決定の通知を受け取る
- 交付決定後に業者へ発注し、設備の導入・工事を実施
- 完了後、支払請求書類を提出する
- 補助金額の確定・支払い
申請から交付決定まではおよそ2か月かかる見込みです。支払請求書の受付期限は令和9年1月31日となっており、逆算したスケジュール管理が求められます。予算額に達した場合は、受付期間の途中でも申請受付が終了することがあるため、早めの準備が有利に働きます。
申請方法と問い合わせ先
申請書類は、郵送またはJグランツ(電子申請システム)で提出します。メールでの申請はできません。窓口は一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会が運営する「エイジフレンドリー補助金事務センター」です。制度の細部は改定される場合もあるため、応募前に事務センターの最新案内を確認する姿勢が欠かせません。
申請時に見落としやすい注意点
この補助金で最も見落とされやすいのは、交付決定より前に発注してしまうケースです。
交付決定日より前に業者へ発注(取組を開始)していた場合、原則として補助金を受け取ることはできません。また、取組がすべて完了する前に代金を支払う、いわゆる前払いも対象外です。
焦って先に設備を購入してしまうと、後から申請できないことに気づく事業所もあるようです。順番を間違えないための、最初の確認事項。
その他、実務上つまずきやすいポイントを整理しました。
- 支払請求時には、実施状況が分かる写真など証拠書類の提出が求められる
- 封筒に消印が確認できない料金別納・後納や、受付日が確認できない宅配便での送付は不可
- アイススラリー・保冷剤・スポーツドリンクそのものは対象経費に含まれない
こうした細かな条件を一つずつ確認しながら準備を進めることが、確実な採択への近道です。小さな見落としが、後々の不採択につながりかねません。
処遇改善加算とあわせて検討したい視点
熱中症対策コースは設備投資への補助であり、職員の賃金改善を目的とした制度ではありません。
介護事業所の人材確保という観点では、賃金面の支援策として「介護職員等処遇改善加算」という別の制度もあります。熱中症対策コースで職場環境を整えつつ、処遇改善加算で賃金面の改善も進めるという二段構えの対応を取っている法人も見られます。
処遇改善加算の制度概要や2026年度改定のポイントは、介護職員等処遇改善加算の徹底解説でも詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
よくある質問
Q1. 熱中症対策コースと専門家総合対策コースは併用できますか?
コース自体は別枠ですが、それぞれの対象経費や手続き要件が異なります。両方の要件を満たすのであれば、別々に申請すること自体は可能です。ただし詳細な併用条件は事務センターへの確認が必要です。
Q2. 60歳未満の職員しかいない事業所は対象外ですか?
対象要件のひとつに「役員を除き、労災保険適用の60歳以上の労働者が常時1名以上就労していること」があります。該当する職員がいない場合は、このコースの対象にはなりません。
Q3. 訪問介護のように屋内での勤務が少ない業態でも申請できますか?
屋外での移動や利用者宅への訪問業務が「屋外作業等」に該当する可能性があります。ただし個別の作業実態によって判断が分かれるため、事務センターへの事前確認をおすすめします。
Q4. 申請してから結果が出るまでどのくらいかかりますか?
リーフレットに示されたスケジュール例では、申請から交付決定までおおむね2か月程度が見込まれています。余裕を持ったスケジュールで準備してください。
Q5. 交付決定前に見積もりを取るだけでも問題ありませんか?
見積もりの取得自体は発注に当たらないため、通常は問題ありません。ただし発注や契約、代金の支払いは交付決定後に行う必要があります。
Q6. 予算はどのくらい確保されているのですか?
複数の解説記事では、制度全体の予算額が前年度の7.6億円から約25%増の9.5億円になったという情報が紹介されています。ただし本記事の執筆時点で、厚生労働省の公式資料から予算総額の数値そのものを直接確認することはできませんでした。正確な予算規模は、公式発表や事務センターへの問い合わせで確認してください。
まとめ
熱中症対策コースは、令和8年度から独立した枠として新設された制度です。補助率1/2・上限100万円という条件のもと、体表面の冷却装備や身体冷却機器、健康管理のためのウエアラブルデバイスなどが対象になります。介護事業所は60歳以上の職員が多く在籍する傾向にあり、屋外業務も伴うことから、対象要件に当てはまりやすい業界のひとつです。
制度の恩恵を受けるには、交付決定前に発注しないという基本ルールを守ることが何より重要です。まずは自事業所に60歳以上の職員が常時1名以上在籍しているか、そして該当する業務が「屋外作業等」の定義に当てはまるかを確認することから始めてみてください。申請の要件や様式に不安がある場合は、一人で抱え込まず、エイジフレンドリー補助金事務センターへ問い合わせることから着手してみてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の申請可否や採択を保証するものではありません。実際の申請にあたっては、必ず厚生労働省または一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会「エイジフレンドリー補助金事務センター」の最新の公式情報をご確認いただくか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。